今更…ではありますが、「1Q84」のBook3をやっと読み終えて(間に割り込みで読まなければいけない本がどんとこさ入ってきたものですからっっっ)、この記事を書くに至りました(苦笑)。
村上春樹氏の長編「1Q84」のBook3を開かれた方ならまず目次を見た瞬間から「えっ?!』と期待を裏切られたような気持ちを持たれた方も少なくなかったのではないかと思います。
かくいう私も…。
だって、あの「牛河」氏が章立てされて青豆や天吾と共に連なっていたんですから。
それで今回、その「牛河」氏絡みでとても気になった曲があったので少し調べてみました。
〈シベリウスのヴァイオリン協奏曲〉
ジャン・シベリウス(1865年12月8日〜1957年9月20日)はフィンランド生まれの作曲家。もともとヴァイオリンと作曲法を学んでいたので、本人はかなりヴァイオリンを弾ける人だったらしいです。そのため唯一のヴァイオリン協奏曲は技巧的にもとても難しいようですし、音楽に秘められた内面を浮彫りにさせるための表現力も必要で、コンクールなどではひっぱりだこの曲らしいのですよね。
さて、このヴァイオリン協奏曲、「1Q84」のどこで使われていたと思いますか?
それは…!
257頁で牛河がぬるめの長風呂につかるシーンでございます。
あんまり想像したくないシーンでしたが〜(笑)。
「…ユニットバスの狭い浴室では、シベリウスの音楽はいささか情念的に過ぎたし、その響きは緊迫感をふくみすぎていた。しかし牛河はとくに気にかけなかった。…」
シベリウス/ヴァイオリン協奏曲 第1楽章
ヴァイオリン:ダヴィッド・オイストラフ
指揮:ユージン・オーマンディ/フィラデルフィア管弦楽団
いやあ深いです。とっても深い気がしました。しかも1頁以上に渡ってこの曲が流れているシーンが続いているのです。まるで牛河の未来を暗示しているかのような不安定な音程の曲の出だし。
そして牛河という人物を紹介するかのような曲の使用。
と、いうのも、この曲、第1楽章から第3楽章までを持つ「協奏曲」という形式をとっておりますが、通常その比重というのはおおよそ均等に配分されている曲が多い(と思います)中、この曲は第1楽章がとても大きな形(長い)になっているのです。まるで頭でっかちの曲なんですよね。
頭でっかち??
そういえば…
タマルや青豆は「福助頭」と表現している風貌。
もしかして…これは彼のキャラクターを改めて紹介するという意味でも使われたのかしら…? などと考え過ぎかもしれませんが、そんな風にも思えてきたり。
この曲の語法として何かないかな…と探したところ、
「一見幻想曲ふうな楽想がここでは緻密な論理的構成によって処理されている」
『北欧の巨匠』(音楽之友社刊)の中で菅野浩和氏がこのように表現されていらっしゃいました。
“緻密な論理的構成”
まさに「牛河」のキャラにピッタリではありませんか!!
ほうほう!
そして混沌とした中で美しい旋律が迷いながら進んでいく「さま」は、まさに牛河が入り込んでしまった世界を象徴しているかのように思えてなりませんでした。
ただ、第3楽章はあまりに明る過ぎる曲のような気もするので…このあたりはどう解釈するのかな…とは思うのですが、結局日の当るような生活をしていた頃(結婚していた頃の生活)を思い出していたのでしょうか…。
このシーンで流れていた曲が、決してラモーの「コンセール」やシューマンの「謝肉祭」ではなかったという意味も何となくわかるような気がいたします…。
さすが、村上春樹さん!!! と思わざるをえません。
ちなみに、牛河が聴いたと思われるオイストラフの演奏CDはこちらあたり? 息子のイーゴリ・オイストラフもヴァイオリニストでしたが、ここではお父さんの方のダヴィッド・オイストラフ(1908-1974)の演奏でした。
〈ヤナーチェクのシンフォニエッタを聴き比べしてみたい!〉
さてさてその他にもこの小説の中にはたくさんのクラシック音楽が登場しますよね。
例えば、Book1とBook2が出た時に話題になったヤナーチェクの「シンフォニエッタ」。これは前回おおよその作品解説風なことを書いたので省略しますが(その時の記事はこちら)、その時には知らなかった事実を追記として今日は付記してみます。
それは、何度か出てくるこの曲、演奏者が微妙に違うんですね。
●青豆が聴いていたのは、
ジョージ・セル指揮のシンフォニエッタ。
●天吾が聴いていたのは、
小澤征爾指揮のシンフォニエッタ
う〜ん聴き比べてみたくなりますね〜☆
実は牛河もあやうくこの曲を聴くことになりそうだったシーンがあるんですよね。上のシベリウスの後にかかるはずだったのに、牛河はラジオを消してしまったんです。この曲を聴いていたら、彼の運命は変わっていたのではないでしょうか…。
けれど、それは一体誰の演奏するシンフォニエッタだったのかしら…?
もう一つ、Book1の冒頭に出てくるタクシーの中でかかっていたシンフォニエッタ、こちらも誰の演奏なのかは謎のまま(手元に今Book1がないので確認がとれないだけかも?)。
とはいえ、こうして小説の中にクラシック音楽が出てくると、結構身近な気がして聴いてみたくなる人もいるのではないでしょうか。クラシック音楽はそれでも敷居が高いですか? そういう人には、誰が演奏したも何も関係なく、こんな曲ですよ! というとても便利なCDも登場しています♪
こういうのEMIさん得意ですよね♪
「小説に出てくるクラシック」というCD
すでにBook1とBook2の分は発売されております。
こんな楽しみ方もありでしょう♪
「1Q84」に関する「解釈本」のようないろいろな本が続々と登場しているようですね。もしかして上に書いたようなこともすでに書かれているのかしら…? どれが一番深く追求されているのか読み比べてみたい気もしますが(笑)。読まれた方がいらっしゃいましたら、ぜひぜひ感想を教えてくださいませ〜☆
その他の関連商品[CD]
コンピレーション/ドン・ジョバンニと薔薇の騎士-小説に出てくるクラシック
コメント
こんにちは。
シベリウスといえばkontentenさん。ヴァイオリンもお弾きになるようで、すごい方だと思っているのですが、私が知っているのは「フィンランディア」程度。でも、これを聴くと後半、いつもぐいぐいとのけぞっちゃうんです。笑う
この曲も知っていますが村上春樹は読んでいません。
「響」のこのCMは本当のコマーシャルかと思いました。
楽才のある方は、映像の表現もさすがですね。映像と音楽はリズムやテンポなど、共通していることをよくご存知でいらっしゃいます。
まだ読んでいないのですが(死ぬまでに読むかどうか不明)、この本は、もしかしたら浅田彰の同名のカセットブックと何らかの関係(因縁)があるのか・・・どうなんだろう。
かなり真剣に読ませて頂きました^^
でも、この本を読んでいないので…話題に上った本くらい
読んでみた方が良いですね^^;
音楽を聴いても眠くならないのですが…本を読んでいると
睡魔が襲ってきてしまいます。
でも、本を読んでいて その音楽を知っていれば状況も見えてくるようで また、違う楽しみ方ができますね!
>sigさん
そういえば、kontentenさんシベリウスお好きでしたよね^^
この曲ご存知でしたか。私曲名だけを聞いた時に実は曲を思いつきませんでした。3楽章あたりで「ああ、これだったのね」とやっと(笑)。オーケストラの曲って(協奏曲も含め)あまり普段聴かないので(汗)。「響」の動画は、だいぶ自分でも慣れてきたなと思えるようになってきました。あと音楽の著作権がクリア出来るものをやっと見つけることが出来たのでこれからはうんと活用していきたいと思っています♪ 「月記帳」アップがメインになるとは思いますが、こちらの「クラシック帳」で楽曲についてとか補足していけるようなブログ作りをしていけたらいいな…と思っておりますゆえ、宜しくお願いいたします☆
>くまさん
浅田彰さんのカセットブックは知りませんでした。外国の小説で「1984」という普通の年号のものもあるようですよね。もしかするとそれらとリンクする部分とか、パロっている部分とかあるのかもしれませんよね。下に紹介した「謎解き系」の本に何かヒントは載っていないかなぁ。
>フレンドリー2010さん
あ、ちょっと汗が出てきました(笑)。
真剣に読まれてしまったら、ボロがたくさん…のような…(汗)。
自分の思い込みだけで書いている部分も多いかもしれませんし、本当は村上さんがどんなことを思われて使用されたかなんて、きっと本人じゃないとわからないとは思うのですけれどね。思わず謎解きしてみたくなるようなそんな本なんですよ。book3が終わってもまだまだ謎が残されていて、一つずつ解明していきたくなる…というのも魅力の一つなんでしょうかね。村上春樹さんの本を読んだのは実はこれが初めてだった超初心者ではございましたが、クラシック音楽ファンなら特に楽しめるような内容ではないかと思います^^v
シベリウスのバイオリン協奏曲は聴いたことがありませんでした。それに、バイオリンを学んでいたということも知りませんでした。
シベリウスだと「交響曲2番」が好きですが、弦のハーモニーが実に美しいのは、彼がバイオリンを学んでいたからなのかなぁ、と改めて感じました。特に第4楽章は、快感ですね。
バイオリン協奏曲、聴いてみます!!
クラシックの敷居は高くないですよねぇ。(^^)
>サファイヤさん
シベリウスのヴァイオリン協奏曲、実は私も聞いたことがないな…と思っていたのですが、第3楽章にきたときに、ああ、これなの!と思い出しました。もしかしたらサファイヤさんも聞いたことがあるかも…です^^
シベリウスは時々はっとするような美しさが織りなされてきたりそうかと思うとやっぱり時代のせいか不可解な部分が出てきたり、それが不思議な魅力な気もします。ただ時代が新しい人のわりに古典を愛された方なんじゃないのかな…と勝手に思い込んでいますが。
最近クラシック音楽の敷居はどんどん低く設定される機会が増えてきていますよね。フォル・ジュルネを始め、今度夏にはミューザKAWASAKIでも一つのコンサートの時間が短めなコンサートが開かれたりしますし♪ もっともっとクラシック人口が増えたらいいな…と思っています。
1Q84、BOOK2まで読んで・・・、あまり面白くなかったかもと思っていました。
でも、BOOK3は村上春樹さんらしい小説で、次のBOOK4を期待してます(たぶんあのストーリーだと続きがあると思うのですが)。ヤナーチェックのシンフォにエッタはセルのを買いました。やっぱりあまり聴かない曲ですよね。クラシック好きですが、このCDは持っていませんでしたから。
小沢さんのと聴き比べるのも面白そうです。
シベリウスのバイオリンコンチェルトもしばらく聴いてません。
今日、帰ってきたら聴いてみますね。 ^^
こんにちは♪
「1Q84」は話題になったので読みたいな~と思っていましたが、うささんの記事で、さらに読んでみたくなりました^^
でも本が苦手な私には難しそうですね・・・
シベリウスのコンチェルトは、音大時代に上手なお友達が弾いてて、わたしはとても弾けそうにないわーって思っていた曲です。
聴きたいな~と思って家のCD探したらないし^^;
音楽と本が魅力的に描かれているステキなレビューありがとうございました☆
>mozさん
こんばんは。レスが遅れてごめんなさい。
もともと村上春樹さんファンなどは、やはりmozさんと同じように「1Q84」Book1と2が出た時に、そんなに面白くないようなことを言われる方も意外と多くいらっしゃいましたよね^^ Book3は「らしい」ということは初めて村上春樹を手にした私にはよくわからないことではありますが、結局「純愛」みたいなことが大きな根底に流れているのでしょうか。「シンフォニエッタ」はこの小説と出会わなかったら、おそらく私は一生聞かなかったかもしれない曲かな…とも思えます。こういうことがきっかけになって聞こうと思うのもちょっと不思議な気もしますけれど。シベリウスのヴァイオリン協奏曲はなんだか聴き始めるとハマりますね…。頭の中をずっと1楽章が駆け巡る日が何日も続いてしまいました(笑)。
>あんこさん
こんばんは♪ レスが遅くなってごめんなさい。
昔は私、結構本を読んでいたのですが、最近全然「活字」を読もうという気がおきなくて本とは疎遠になっていたのですけれど、この本はガツガツ読んでいくことが出来ました^^ 難しくはない本だと思いますが、いろいろ考え出すとキリがなくもなりそうです(笑)。
シベリウスのコンチェルトはテクニック的にも相当難しい曲だと聞きました。ピアノでいうとラフマニノフのピアノ協奏曲3番あたりに匹敵するのかしら…?
シベリウスのヴァイオリンコンチェルト、ほんと何年かぶりに聴きました。シベリウスもなかなか良いですね ^^
交響曲もしばらくぶりに聴いてみます!!
>mozさん
私もシベリウスの魅力にちょっとハマりそうな予感です^^ 交響曲、私も聞いてみようかな…。また感想でもぜひお聞かせくださいませ♪