ちょっと前のことになってしまいましたが、4月12日に
「全国書店員が選んだ いちばん! 売りたい本 2016年本屋大賞」に宮下奈都(みやした・なつ)さんの「羊と鋼(はがね)の森」(文藝春秋)が決定しましたね♪
毎年、目利きの本屋さんたちが選んでいる本なので興味津々! 今年は「調律師」が描かれている本だと小耳にはさみ、これは読まなければ! と購入しました。
「羊と鋼の森」は、
ピアノの調律に魅せられた一人の青年。
彼が調律師として、人として成長する姿を温かく静謐な筆致で綴った、祝福に満ちた長編小説。(文藝春秋HPより)
読み始めると、すぐに宮下ワールドに引きずり込まれました。
まず情景描写にいきなり感動! 美しいんですよ。色彩が見えてくるような、清々しい空気が伝わってくるような…。
…グランドピアノの蓋を開けた。――僕にはそれが羽に見えた。その人は大きな黒い羽を持ち上げて、支え棒で閉まらないようにしたまま、もう一度鍵盤を叩いた。
森の匂いがした。夜になりかけの、森の入口。…
とても心地よくて、どんどん読み進められました。読み終わるのがもったいなくて何度か意識的に休憩をとったりしましたけれど(笑)。
子供の頃からピアノを習っていた私の家にも調律師さんは年に1度くらいのペースで来ていただいていました。だから、調律している場面では頭の中に音が響き渡りました。
これは経験しているから感じられる感覚じゃないかと思うのですが、全くピアノに縁のない方の感想も、やはりそこに「響き」はあるみたいです。これが宮下マジックなのでしょうか?
私事で恐縮ですが、実は高校時代、音大に行こうか、それとも調律師を目指そうかと思った時期があって、調律師への夢がかたまりかけていたことがありました。
だけど、専門学校などの「資格」の中に「身長155cm以上」という項目があって、ギリギリ155cmあるかないかの私は、あきらめました…。最低ラインで入ったとしても、上を目指すためには人の何倍も努力が必要になるんだろうな…って、やってみる前にあきらめたことを思い出しました…。
調律師になった主人公の外村くんもまた、夢を追いかけることの難しさに直面していきます。目標に近づこうといろいろあがきながら、挫折したり、先輩やお客様から励まされながら、努力の仕方を模索していきます。
すごいなって思ったのは、外村くんの感性! 美しいというか、純粋というか…心が洗われる気がしました。すっかり自分の中には無くなっていたことのように思いました(笑)。
読み終えてから、みんなどんな感想を持つのかしら…と、クチコミなどをチェックしてみたのですが、中には、「音楽を勉強してきた人にとっては物足りない」的なことを書かれている人もいました…。う〜ん。音大程度しか学んだわけではないけれど、私的には、心から満足できた1冊だと思ったんですけれど、厳しい人もいらっしゃるんですね(笑)。
余談になりますが、「史実と異なる部分がある」と書いていた人たちもいて、どの部分かなぁ…って思いましたが(なぜかこの部分って具体的に指摘している人が見当たりませんでした)…
多分、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ「月光」のくだりのところ(213ページ)じゃないかと思うのですが…。(違うかも…?)
どうやら第一楽章と第二楽章の間に、ベートーヴェンが使っていたメインの楽器がチェンバロからピアノになったのではないかと言われている。つまり、その頃、鍵盤の数はようやく八十八になったということだ。
あれ? 月光の第2楽章のことじゃないよね? 音域は第1楽章と変わらない曲だったはず…って読みながら何となく感じたので、印象に残っていました。
ちょっと気になったので調べてみたのですが、「月光」が作曲されたのは1801年。その後の1803年にエラールの今の打鍵方法とそう変わらない形のピアノがベートーヴェンの元に届いて、それもまだ88鍵ではなく、68鍵とのこと。それでも61鍵から7鍵も増えた楽器になったから、ベートーヴェンは触発されて、「ワルトシュタイン」(1803年)や、「熱情」(1805年)等を作ったそうです。特に「熱情」では、最高音がふんだんに使われているみたい。
専門書をしっかり調べたわけじゃなく、ざっくりとググっただけなので、ちゃんとしたウラが取れていませんけれど…。
だけど、「ワルトシュタイン」の楽譜を見直してみたら、確かに新しく加わった音域の音が輝かしい響きを確かめるかのように鏤められていて、ベートーヴェンの喜びがわかったような気がして、なんか私までウキウキしちゃいました(笑)♪
確かに微妙な部分はあったかもしれませんが、私はそんなちょっとした引っ掛かりよりも、小説の流れに身を委ねていたこともあり、あまり深く考えずに読み進めちゃっていましたけれどね。
…と、脱線しちゃいましたが。
この本から、たくさんの勇気をも、もらうことが出来ました。
例えば…
「焦ってはいけません。こつこつ、こつこつです」
「こつこつ、どうすればいいんでしょう。どうこつこつするのが正しいんでしょう」
外村くんの必死さが伝わってきます。そんなことを考えて焦ってしまう時代…あったなぁ…。というか、いまだにありますね(笑)。
「明るく静かに澄んで懐かしい文体、少しは甘えているようでありながら、きびしく深いものを湛えている文体、夢のように美しいが現実のようにたしかな文体」
板鳥さんが目指しているという原民喜(はらたみき)の言葉です。私もそんなことを考えながら生きていけたらいいな…と、しばし言葉を頭の中で繰り返しました。
ある時、外村くんにその挫折感を決定づけるような出来事が起こります。自分の身の丈を知った…。才能ってなんだろう? 努力ってなんだろう?
外村くんは板鳥さんに打ち明けました。その挫折や、悔しさに…思わず私も涙が出てきました。今の私の年齢的は、板鳥さんの立場になって、何か助言してあげなければいけない立場だと思うけれど、自分だったら、どんな言葉をかけてあげられるのだろう…? って、そんなことも考えました。
板鳥さんは、自分のチューニングハンマーを「お祝いだ」と言って外村くんに渡しました。「きっとここから始まるんですよ。」と言って。
……
読み終えて思ったことは…
自分の中にもまだこんなに「文字」から情景や匂いや色彩や…いろいろな想像が広がっていく力が残っていたんだな…ってすごく嬉しくなって、宮下さんに感謝したくなりました。
そして、この長編小説は、まるで1曲何かの曲を弾いている感覚にも似ているなって思いました。
その曲に込められた想いやそこから感じるものを自分の音に重ね、それでいて静かに淡々と曲の骨格をも探していく…。ミスタッチがあっても、流れを壊さずに続けて…。何度も何度も迷いながら、正解なんてない世界。だけど、その曲にできるだけ寄り添っていきたいという気持ち…。
ここでまた余談ですが、先日、宮下さんがテレビに出演されていらした時、ご自宅の仕事場が映りました。パソコンのすぐ後ろにアップライトのピアノが1台。なんと「Atlas(アトラス)」のピアノでした。うわ〜珍しい! 私が通っていた音大の練習室も「Atlas」ピアノが多かったけれど、自宅に持っていらっしゃる方は今まで周りにはいなかったので、これは宮下さんのこだわりなのか、勧められるがままに購入されたのか、そのあたり、うかがってみたくなりました(笑)。
はっとさせられる言葉がたくさん出てきました。
感性を目覚めさせてもらえました。
素敵な登場人物に溢れていました。
いろいろうまく書けないけれど…
すごく素敵な本に出会えたということは間違いありません♪
クラシック音楽を勉強されている方にも、全くクラシック音楽に興味のない方にも、すごくお薦めしたいと思う本です。
羊の写真やピアノの白いハンマーをこの記事に鏤めたのは、読んでくださればわかっていただけると思います。
長々と書いてしまいました。ここまで読んでくださり、ありがとうございました♪
HMVで購入されたい方はこちら→宮下奈都/羊と鋼の森
その他で購入されたい方はこちらからどうぞ ↓
「羊と鋼の森」はもう大分前に買ったのですが、私はいつもそうであるように、何冊かの本をまとめ買いしてしまうんですョ。と、いう訳で「羊と鋼の森」は未だ本箱の中で積んどく本になっています(苦笑)。
とても素晴らしいコメントでしたので、音楽音痴の私でも楽しめそうですね。そろそろ取り掛かりましょう!!
それにしても「専門学校」の受験に身長制限があるなんて知りませんでした。私もずーッと若い頃に専門職の受験に、ある学校は身長制限があった事を思い出しました(笑)。
本の事から外れてしまいました。楽しみにして読みますね。
返信
たけばぁさん
コメントを残してくださり、ありがとうございました。レスが遅くなり、申し訳ございませんでした^^;
読書感想文というものは超〜苦手なので、あまり本のレビューは書かないようにしているのですが、これは思わず書いてしまいまして(笑)。もしまだ本棚に眠っている状態でしたら、ぜひ読んでいただきたいなと思います。読まれた後にまた感想などうかがえると嬉しいです^^*
たけばぁさんの頃にも身長制限のある学校があったのですね! どんな職種なのかちょっと興味があります♪
返信