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ポゴレリッチのコンサート2010年

(本日のブログ内容はかなりオタク的な上に説明などない不親切な内容ゆえ、一般の方はスルーで構いません。(ぺこり))
私が年をとったからだろうか…。それともポゴレリッチが年を取ったからだろうか…。きっとどちらもなんだろうな…。

頑固な人が増々頑固なおじいさんになっていくように、我が儘な人がどんどん我が儘なおばあさんになっていくように、年齢を重ねていくとその人の「あく」がどんどん加速度を増してキャラクター化されてくる。

ポゴレリッチは、まだ51歳という年齢のはずなのに、もっと年輪を重ねていった人のように、ますます異端児に変貌していた…。そして私は若ければ柔軟に受け止められたかもしれないことが、ややわだかまりのように…。
そんな演奏会だった。

ポゴちらし1.jpg

5月5日14時、サントリーホールにて行われたイーヴォ・ポゴレリッチという私の大好きなピアニストのリサイタル。聴き終えていろいろな考えが頭をよぎっていて、整理がつかない状態でこの文章を書き始めてしまった。


今回のプログラムは
本人の意向により急遽変更になった部分が2点。
しょっぱなの
ショパン/夜想曲Es-Dur op.55-2がE-Dur op.62-2へ
そして、後半に1曲追加で
ブラームス/間奏曲 B-Dur op.118-2が。
ということで
ショパン/夜想曲 E-Dur op.62-2
ショパン/ピアノ・ソナタ第3番 h-moll op.58
リスト/メフィスト・ワルツ 第1番
休憩
ブラームス/間奏曲 B-Dur op.118-2
シベリウス/悲しきワルツ
ラヴェル/夜のガスパール
というプロだった。
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最初の「ノクターン」が変更になったという会場内のアナウンスに場内はなぜかどよめく(笑)。
こういうことは他の演奏家だってよくあることなのに、なぜかこの日の会場は他の演奏家のリサイタルとはまた違った雰囲気を醸し出していた。
そして…いつものごとくステージの照明は暗く落とされ、会場中が集中力をもって彼の登場を待っているかのようにも思えた。ここまで静まりかえって主役を待つコンサートも珍しいと思う。
いよいよ…登場の時。
曲目が変更になったせい? 暗譜ではなく、楽譜が置かれた。
まぁ、でもそんなことは全く関係ないと私は思っている。
暗譜で弾こうが楽譜が置かれようが、紡がれる音を待つだけだった。
ノクターンの1音目が奏でられ始めた。
ああ、この瞬間を待っていたのだ。彼の音楽に触れられるこの瞬間を。
私も全神経を集中して「時」の流れを感じながら身を委ねた。
実はこの曲を私は知らなかった。だから、楽譜は全く浮かんでこないし、どんな曲なのかも予想出来ていなかった。
弱音の美しさにはただただ息をのむばかり。次の音は更に弱く弾かなければいけないはずなのに、そんなに音を弱くして大丈夫なの…?? 次の瞬間には倍音ともとれるような静かな静かなpppの音が遠くまで届く。それだけでも涙が出そうになったほどだ。
途中、楽譜が落ちそうになるというハプニングもあったが、譜めくりのお兄さんがはっしとくいとめたのは、心の中で拍手喝采(笑)。
そんな中でいつしかノクターンが終わってソナタに入った。
ソナタもまた楽譜が置かれた。結局この日は全曲楽譜を見ての演奏ということになった。
さすがにソナタの3番は自分で弾いたことはなくても、曲は何度も聴いたことがある曲だから、ある程度はわかる…と思っていたはずなのに、自分の知っているソナタとは全然違っているように聴こえてきた。
ポゴレリッチのお得意の「こだわりの音選び」がそうさせるのか?
彼は時折、一般的に言われている「メロディーライン」以外の音を「メロディー」のように浮かび上がらせて弾くことがあるのも特徴だと思っている。そんな彼の演奏に出会うたびに、その曲の新たな発見を見出すことが出来て私は結構楽しみにしている。
が…
テンポは牛歩どころではない…恐ろしくスローな流れ。
まるで、私が初見で「絶対に音をはずしてはいけませんよ!」と言われながらおそるおそる弾く程度の速さのようにも聴こえる(失礼かっっっ)。とはいえ、もちろん1つ1つの進行がとても音楽的だ。こうしてショパンを聴いてみると、ショパンの和声の展開方法がものの見事にわかってしまう。
ポゴレリッチはプログラムの中で
「ホールの彼方まで命を損なわずに届く音と音を互いに結びつける弾き方を追求している」と述べていた。
まさに…それは頷けるけれど…。
ショパンのピアノ・ソナタ3番、第1楽章のテンポ「アレグロ・マエストーソ」については、
「メトロノームの速度表示のようなものでは決してない。(略)だから喜びと生命を表現するために必要な時間を与えた。(略)それは真摯に文学的に捉えられるべきです。」
とても深みのある言葉だと思うし、ある意味今回の演奏で納得させられた感も、もちろんある。
けれど、通常第4楽章までおおよそ30分弱程度で弾き終わるはずのソナタを4、50分近く(多分)もかけて演奏されると……。私は集中力を持続させることが出来なかった。
しかもその後のメフィスト・ワルツはインテンポで気分転換か? と思ったにも関わらず、これまたスローテンポ。結局14時から始まった演奏会でソナタまでの2曲が終わったのが15時15分。そしてメフィスト・ワルツを含む前半が終了したのが15時40分くらいだったろうか…。もうすでに1回のコンサート分くらいは充分聴いている時間だ。
疲れた…前半だけでよっぽど帰ろうかと思ってしまったくらい、気力を消耗していた。コンサートの後には会社によって仕事もしなくてはいけないというのに…。
が、私は最後に演奏される「夜のガスパール」を特に楽しみにしてきたから…と頑張ることに。
両隣の方は前半でお帰りあそばしましたが(もちろん、知らない方です)。
そんなこんなでブラームスやシベリウスも「ああ、しびれるぅ〜☆」的な場面はもちろんあったにせよ、やっぱり長くて…。
やっとガスパール。
明らかにそこまでの音色とは違った音の輝きをもっていたことに希望の光を見出したけれど。
この曲は以前のブログにも書いたように、母校のK音大講堂ホールで初めて生でポゴレリッチの演奏を聴いた時の曲。この時の「青白い光」の感触を20年以上たった今でも忘れていないというくらいインパクトの強いものだった。
その感動をもう一度! という気持ちで来たけれど…結果は…。
多分…若い頃の彼はかなりミステリアスという鎧で覆われていたのだと思う。今の彼は後進の指導にも積極的にあたり、人生を謳歌しているような…そんなふうに過ごしているのではないかと見えてくるような演奏だった。とはいえ、あの頃に比べ、やはりだてに年齢を重ねているわけではなく、「絞首台」などの最後まで続く音の表現などは圧倒された。

Sプロ.jpg

総じて…
彼は自分でも断言している通りいくつもの引き出しを持っており、それが本当に多様なのだと思う。今回のショパンは「強さ」を感じた。どこが…と言われてもうまく説明出来ないのだけれど…。とても力強く感じた。
そして、もう一つ特筆しておきたいこと。
今回これはまだ楽譜と照らし合わせてみていないので、断言できないのだけれど…。
「不協和音」にとてもこだわりを持って演奏していたように思えた。ショパンの時も「え? そんなジャジーな和音ってあったっけ?」なんて箇所が何カ所も出てきたし、2度でぶつかり合う音に関してはそこをとても強調した弾き方をしていたように思えた。
ショパンやリストは「現代音楽」はたまた「ジャズ」だったのではないだろうか…と錯覚してしまうような要素が盛り込まれていた。これは今まで他の演奏では味わったことのない「音の響き」だったので、これから楽譜を一生懸命眺めてみようかと思っている。(あるいはポゴレリッチの編曲だったのだろうか…??)

プロ表紙.jpg

久々にこちらをアップしました。
これからこちらが「月記帳」状態で月に1度はアップすることを目標にしてみようと思っています。(というか、本館「月記帳」のフォローブログにしていくつもり…とある程度方針を打ち出しました♪)
ということで、ここまで読んでくださった方、本当にこんなしょうもない感想につき合ってくださり、ありがとうございました。何か感じたことがあった方がいらっしゃればぜひコメントを残していっていただけると嬉しいです。
あ、ちなみにアンコールはありませんでした。演奏が終わると同時にホールの客席に明かりが入って「もうおしまいよ」状態でしたから(笑)。それだけ長丁場だったんですよね。終演は17時20分でした。やれやれ。
本当は、お口直しのデザートにインテンポでのスカルラッティ/ソナタあたりを聴いて、帰りたかったような気がしたのですけれどね…。
↓ 愛聴盤です。


スカルラッティ:ソナタ集(SHMーCD)

良い演奏会と言えば、よかった!! とも思えるし…
なんだか微妙な演奏会でしたぴょん。

最新記事は2012年5月9日サントリーホールのコンサート感想です。

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コメント

  1. ゆみちゃん より:

    「ポゴ」様は、熱狂でも演奏をしたのよね。
    ホールAで4000円のお値段(高杉)
    聞きにいきたかっかけど、あのホールで4000なので
    止めたのです。
    私が12年前(?)最初にサントリーホールで聴いた「ポゴ」の
    ベートーベンには涙が出ました。
    ががが・・・一実さんはあまり評価していなかったなぁ>ポゴ

  2. kontenten より:

    イーヴォ・ポゴレリッチ・・・クラシック通の師匠(会社の部長)に、どんな人か聞いてみました^^;Aアセアセ
     ショパンコンクールで途中落とされ、それを嘆いたマルタ・アルゲリッチが「この人を落とすなら・・・」と言って審査委員長を降りたと言う逸話の持ち主だそうですね。
     私は・・・シベリウスの「悲しきワルツ」しか知りませんが、
    素晴らしいコンサートだったかと想像出来ます(^^)。

  3. MUUSAN より:

     おぉ、久しぶりの更新に喜んでます。って、記事内容に関係ない話ですいません……

  4. sig より:

    こんにちは。
    久々の音楽記事、分からないながらも(汗)伝わってくるものがあって、堪能させていただきました。
    作曲家の楽譜をどのように演奏するかというあたりは、表現や創造というものに共通することなんでしょうね。予想外が期待以上の場合はいいのですが、反対だと「なんだかなぁ」という感じになってしまいますね。(笑)
    スカルラッティのソナタ集、13曲のCD持ってます! 私の場合は映像に付ける音楽の選曲用という下心からなんですが・・・。

  5. こんばんわ~
    私はまだ生演奏を聴いたことありません^^;
    友人が熱狂的なファンで来日コンサートは全て行っているそうで…噂だけは…
    以前、テレビでドキュメントをやっていましたのでそれだけは見ましたよ。
    ソナタの3番がどんな演奏だったのか、興味があります^^
    うささんの解説を読んでいるとどんな演奏だったのか、気になりますね!
    私たちがそんなマネをしたら非難轟々(こんな字かな?)でしょうが…勇気ある演奏だったのでしょうか…
    こんなコメントでごめんなさい!!

  6. Operaghost より:

     細かい部分は音楽の知識のない私にはわかりませんが、思い入れが感じられる文章ですね。演奏する側にも聴く側にもそれぞれの思い入れがあるわけで、それらがぴったりと合う場合もあれば、およそかけ離れた方向に行ってしまう場合もあるわけですね。
     ポップスのCD程度の話で恐縮ですが、自分の場合でも同じ歌手の同じ歌でも新しいアレンジのものを聴いて「なんだこのひどいアレンジは!」と思ったりすることがあります。

  7. sheepsong55 より:

    残念ながらこのコンサートには行けなかったのですが、このブログでのご報告があったので助かりました。こういう芸術はまさに一期一会のもので、彼のCDの新譜は出ない理由がわかりますね。

  8. うさ より:

    >ゆみちゃん
    >ホールAで4000円のお値段
    フォルジュルネでそのお値段とはお高いですね〜。さすがです(何が(笑))
    ゆみちゃんセンセも生で聴かれたんでしたよね。私はショパンのソナタ2番葬送で号泣しました。
    ポゴの演奏はなぜか涙を誘うものが多かったような気もするのですが…。あの音色に秘密があるのかな…。魔法にかけられてしまうんですよね。。。
    一実師匠はアルゲリッチさまの熱烈ファンだったのに、ポゴを評価されていなかったとは…(笑)。
    ものすごく好きずきの分かれる演奏家だと思うからね〜。

  9. うさ より:

    >kontentenさん
    ショパコンのお話は前々回ちらっと私も触れさせていただきました〜^^
    そうなんですよね。曰く付きの人で、当時はものすごく話題の人になりましたよ☆ 私はLPで彼のショパコンで弾いた曲集を買いましたもの♪ コンサートは「素晴らしかった」と一概に言えないところが今回微妙でした。彼の「演奏」自体は素晴らしいと思うけれど、曲の解釈の仕方としてはどうなんだろう…とやっぱり頭の固い先生たち(当時の審査員)のように、私も全てを肯定して受け入れることが難しくて出来なかったとでも言うのが正解かもしれません。

  10. うさ より:

    >MUUSANさん
    ありがとうございます^^
    一時期はこちらをやめてしまおうかな…とも悩んでいたのですが、これから連携プレー出来るような体制を思いついたので、うまくいくかは謎なのですが、少しずつクラシック帳も更新できたらいいなと思っております。いつも読みにきてくださってありがとうございます♪

  11. うさ より:

    >sigさん
    多分…音楽の世界も映像の世界も共通項があるから、なんとなく雰囲気的にわかっていただけているんじゃないかなと思います。今回はあえて、細かな説明なしで書かせていただいたので、正直なところわけわかめだったのではないかと…。クラシック帳は本当はクラシック音楽を聴いたことがない人にも興味を持ってもらえるように…という内容を今までは選んできたつもりだったのですが、ついにマニア向けに走ってしまいました(苦笑)。また次回からはもう少し易しく書いてみたいと思います。スカルラッティはたくさんのソナタを作った作曲家ですから、自分に合った曲に出会える確率も高いかもしれませんね♪ どんな映像に、どんなイメージをもたれて、どの曲を選択されたのか、とても興味深いです!!

  12. うさ より:

    >フレンドリー2010さん
    テレビのドキュメント見られたんですね〜。私実は見逃しているんですよねっっっ。だからポゴ様のことは好きなのに、思っている以上に彼のことを知らないかもしれません(笑)。
    ソナタの3番は、一部普通のテンポで弾いた部分もあったのですが、とにかくゆっくりというより、音の最後の響きを聞き届けて次の音に進んでいたというような雰囲気。確かに普通の人が真似したら非難ごうごうだと思います(笑)。かつてテニスプレイヤーのマッケンローが試合中にラケットを放り投げたりとか…マッケンローだったから許されたというようなことがポゴレリッチだから許される。しかも計算されているがゆえに許される。けれど、許されても受け入れてはもらえないかもしれない…なんかそんなことを書きたかったのだけれど、上記の文章ではうまくまとめられませんでしたが。
    あ、音楽評論家の東条碩夫先生のブログを発見しましたので、こちらの方がより専門的でわかりやすい表現だと思いますのでご紹介しておきます。私としては、こちらに書かれていること、ものすごく納得してしまいました〜! 
    http://concertdiary.blog118.fc2.com/blog-entry-732.html

  13. うさ より:

    >Operaghostさん
    もちろん、ポゴ様を愛する者としては、思い入れはたっぷりだと思います(笑)。
    そうなんですよね。演奏者と聴衆の間の微妙な関係。一体化するのか、ズレてしまうのか。それは「良いコンサートだった」と表現されるか否かになってくる部分でもあると思います。ポップスのお話、とてもわかりやすいですね。アレンジによって思いっきり原曲が損なわれてしまうことが多いですから。弾き方は「アレンジ」とはちょっと違うけれど、ポゴレリッチの場合は、楽譜を読んで読んで読みまくってここに辿り着いたらしいのです。だから、ある意味、もしかすると一番忠実にショパンを表現したのかもしれないわけなんですよ。今まで聴き慣れていたか慣れていなかったかの問題なのかもしれません。

  14. うさ より:

    >sheepsong55さん
    こんにちは。初めまして!! コメントを残してくださり、嬉しく思います。ありがとうございます。
    ポゴレリッチの新譜はそういえば…このところずっと出ておりませんでしたよね…。1枚にソナタ1曲で終わってしまっては…(笑)、確かに出せないと思います。とにかくその場では、自分の中で消化出来ないまま帰路についたのですが、今日あたりになって、他の方たちのコメントなどを読んだりしてみると、やっぱり凄い人なのかもしれないな…とか、そういえばあの音は本当に心に染みた…とか今になって余韻がじわじわと沸き上がってくるようなコンサートのような気もしています。呪縛みたいな感じの(笑)。

  15. moz より:

    おはようございます。
    5日にもコンサートがあったんですね。
    ぼくは、そのラ・フォル・ジュルネのコンサートを聴きました。まあ、4000円ですけれど、ポゴレリッチを見ることが出来るので、発売と同時にネットで買いました。
    じぶんのブログにも書きましたが、まだまだ体が温まっていないような感じで、遅めのテンポ、でも、音の迫力は感じるのですよ。夜にならないとだめかなぁ~、なんて感じでした。
    しかも、アンコールは第2楽章丸ごと・・・ @@;
    これには、びっくりでした。
    しかも、先に引いたものより格段に良い演奏。
    潜在能力の高さはひしひしと感じたコンサートでした。
    あっ、遅れましたがご訪問ありがとうございました。今もラフマを聞いています。 ^^
    これからもよろしくお願いします。

  16. うさ より:

    >mozさん
    こんばんは♪ レス遅くなってすみません。mozさんはフォル・ジュルネの方に行かれたんですね。コンチェルトかな? 今日はまだ仕事が残っているので(自宅持ち込み)後日ゆっくりとお伺いして読ませていただきますね! ポゴちゃんの感性はそれはそれは研ぎすまされて凄いと思ってずっとファンをしてきましたけれど…今回の波紋を読んだテンポに関しては、正直私には、難しく感じました。確かに曲の本質を考えるとこういう和声の進行か…と改めて気付く点なども多かったことも事実ですが。コンチェルトは共演したオケに同情が集まっているようですよね(笑)。

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